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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)1308号 判決 1963年4月02日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鹿野琢見の上告理由第一点および第二点について。

論旨は、要するに、原判決が地方公務員法の下において職員の期限付任用の効力を認めたことは同法一条、一三条、二七条、二八条、教育基本法六条二項に違背し、理由不備の違法をおかしたものであるという。

地方公務員法の下において職員の期限付任用が許されるかどうかについては、法律に別段の規定はないが、同法がいわゆる条件付採用制度をとり(二二条一項参照)、また分限免職および懲戒免職の事由を明定して(二八条、二九条参照)職員の身分を保障していることや、特に臨時的任用に関する規定を設け、その要件、期間等を限定していること(二二条二項参照)に徴すれば、職員の任用を無期限のものとするのが法の建前であると解すべきこと、まさに所論のとおりである。しかし、右法の建前は、職員の身分を保障し、職員をして安んじて自己の職務に専念させる趣旨に出たものであるから、職員の期限付任用も、それを必要とする特段の事由が存し、且つ、それが右の趣旨に反しない場合においては、特に法律にこれを認める旨の明文がなくても、許されるものと解するのが相当である。

原判決の確定した事実によれば、山形県においては、小学校の教員については、一般の地方公務員と同様、定年退職の制度がないため、高齢者を罷免し人事の刷新を図るには、勧奨退職の方法を活用するよりほかなく、この方法の円滑な運用を期するため、生活に窮する事情のある者については、退職後改めて一年の期限を限り助教諭または講師に任用することが通常行われていた、ところで、上告人は、三〇数年間にわたり山形県において小学校教諭の職にあつたものであるが、昭和二六年三月二二日県教育委員会から退職の勧告を受け、退職後は生活擁護のため一年の期限を限り助教諭として採用してもらう諒解を得て右申入れを承諾し、同年三月三一日当時勤務していた北村山郡山口小学校を退職し、同年四月三日約旨に従い一年の期限付で同郡東郷小学校助教諭に任用され、その後講師に任用替えになり、期間の更新を受けて昭和二八年二月にいたつたところ、当時の任命権者である東郷村教育委員会から同年四月以降は期間を更新しない旨申し渡されたので、同委員会に対し「いつまでも迷惑を掛けようとは考えていないが、昭和二八年度だけでよいから勤めさせて貰い度い」旨懇請し、同委員会の要請に応じて「昭和二九年三月三一日限り自発的に退職する」との誓約書を差し入れ、再度期間の更新を受け、その更新期間中の昭和二八年六月一三日より地方公務員法の職員任用に関する規定が同村にも適用されるようになつた(同法附則一項参照)というのである。しかして、以上のごとき事実関係の下において、昭和二八年六月一三日地方公務員法の職員任用に関する規定の適用を受けるにいたるまで、上告人は身分上の保障を有するものではなかつた(教育公務員特例法施行令九条但書参照)ということをも勘案すれば、上告人に対する期限付任用は、同年六月一三日以降においても、前記要件を欠く違法のものとは認められない。

されば、原判決の所論判断は正当であつて、所論法条に違反するものではなく、またその判示に理由不備の違法あるを見い出し得ない。論旨は、ひつきよう、叙上と相容れない見解に立脚するか、原審の専権に属する事実の認定を非難するに帰するものであるから、採用できない。

同第三点について。

論旨は、単に抽象的に違憲を主張するにとどまり、原判決のいかなる判断がいかなる理由により憲法の所論条規に違反するかにつき具体的な主張をするものではないから、上告適法の理由とは認め得ない(昭和二八年一一月一一日大法廷判決、民集七巻一一号一一九三頁参照)。それ故、論旨は、採用の限りでない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

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